伯母の葬儀の帰り、激しい雨の降る夜。酔って眠り込んだ夫を乗せて車を走らせていたかおりは、とっさに現れた老婆を撥ねてしまう。恐怖のあまりその場を立ち去った彼女は、轢き逃げの罪に問われ服役することになり、獄中で息子・拓を出産する。
出所後、離婚を告げられ親権も失ったかおりは、それでも息子に会いたい一心で行動を起こし、そのたびに事態をこじらせてしまう。息子との接見を禁じられた彼女は、身分を偽りながら西へ西へと各地を転々とし、誰にも打ち明けられない過去を抱えたまま、ただ黙々と生きていく。
直木賞作家・佐藤正午が9年の歳月をかけて書き上げた長編小説。派手な事件や仕掛けはなく、ひとりの女性の人生を淡々と、しかし丁寧にすくい取っていく筆致が特徴で、読み進めるほどに胸に迫るものがあると評判を呼びました。タイトルの「熟柿」とは、熟した柿の実が自然に落ちるのを待つように、気長に時機が来るのを待つことを意味する言葉。かおりの生き方とこの言葉がどう重なっていくのかは、ぜひ本編でじっくりと確かめてみてください。